山麓王国

No.759

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ニャルラトホテプ 3



このとき、緑がかった月からなにかが降りてきた……ようにおもえた。

この光をみたときから、奇妙なことにわれわれはなにか目的でもあったかのように、吸い込まれるようにフラフラと列をなしていたのだ。

いつのまにか道路は崩れて草に埋もれており、錆びた線路の跡すらなくなっていた。

路面電車もあった。しかしこれも朽ちており、窓もなく、ほとんど横転しかかっていた。

地平線を見渡すと、川のそばにあったはずの3つめの塔はなくなっていた。

ふたつめの塔の影が見えたが、頂上が崩れているようだ。

別々の方向に引き寄せられるように、自然と隊列が別れた。

ひとつの列は、左側の路地に消えた……と同時に、ゾッとするようなうめき声だけが残された。

またべつの隊列は、狂ったように笑いながら雑草におおわれた地下鉄の入り口を降りて行った。

わたしの列は、ひらけた荒野に吸い寄せられた。

あれだけ暑かったのに、なぜかここでは寒さを感じる。

まわりを見渡すと、まがまがしい緑色の月光に照らされて、なんと雪が積もっていた。

この不可解な雪には足跡もなく、一方向にのみ吹き分けられており、それが輝く壁を形成して、黒く深い穴が横たわっている。

隊列は夢うつつで黒い穴に向かった。

雪の黒い裂け目が緑に照らされた様子は恐ろしく、怖気だったわたしは、隊列を残して立ちすくんだ。

仲間たちが穴へと消えていくと、弱々しい、泣き声のような不穏な残響が聞こえたようにおもえた。

しかし、わたしにももう、抗う力は残っていなかった。

先に進んだ仲間に手招きされているかのように、わたしは寒さと恐怖に震えながら、想像を絶する渦の中に飛び込んでいた。



わたしがたまらず叫んでいたのか、あるいは愚かしく押し黙っていたのか。それを知るのはもはや神のみである。

もう、終わりだ。

影が手(といってももはや手ではない)の中でのたうち回っている。

低く明滅する青白い星をかすめて亡者の世界から風が吹き、死者の世界にいたはずの腐った創造物は真夜中の街をむやみにうごめいていた。

不浄な寺院から、真空の宇宙に向けて、柱が伸びている。
地上にいる者にはその柱は半分しか見えないだろう。

われわれが緑色の月とおもっていた宇宙の下にたゆたう岩石、柱はそこにつながっている。

怪物のごとき亡霊どもはそこにいた。

そしてこの宇宙の墓場からの反乱を通じ、時を超越した真っ暗な部屋から、くぐもった狂気のドラムビート、そしてうっすらと冒涜的なフルートの音が聞こえる。

これらのいまわしいドラムと笛の音に加えて、巨大にして陰惨たる究極の神々による、ぎこちなく合理性を欠いたのろのろとした舞踏。

この、目も見えず、声も持たず、心の欠けたガーゴイルどもに魂が宿ったもの……これがすなわち、ニャルラトホテプだったのだ。

(終)


#ラヴクラフト #ニャルラトホテプ

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